About Blind Tasting
ブラインドテイスティングとは?
情報ではなく、味そのものと向き合う。
固定観念を超えた、新しいワイン体験へ。
はじめに
ワインを評価する時、私たちは無意識にラベル、ブランド、産地、価格といった多くの情報に影響を受けています。ブラインドテイスティングとは、そうした"前提情報"を一度外し、味わいそのものと向き合うための方法です。
世界ではこの考え方が再び見直され、飲み方・学び方・体験の1つとして注目されています。

ブラインドテイスティングとは
ブラインドテイスティングとは、ワインのラベル・生産者・産地・ブランド・価格などの情報を意図的に伏せた状態でテイスティングし、香り・味わい・質感(テクスチャー)だけを手掛かりに評価する方法です。
多くのブラインドでは
- ・ブドウ品種
- ・生産国 / 生産地
- ・ヴィンテージ
- ・品質
などを推測しながら味わいます。
またブラインドテイスティングは、楽しみ方だけではなく、専門領域においても重要な役割を果たしています。ワインを科学的に評価する官能評価、国際コンペティション等で品質を客観的に比較・判断する品評、さらにソムリエやテイスターの技量を測定するための評価方法としても活用されています。
つまり"遊び"から"職能評価"まで、ブラインドテイスティングはワイン文化を支える多面的な基盤となっています。

歴史
ブラインドテイスティングの概念は古代に遡る可能性があります。ワインが樽で保存・流通していた時代、ラベル情報は存在せず、味と香りだけで判断することは自然な行為でした。
19世紀フランスにおけるワインテイスティングの地位向上
19世紀初頭、フランスでは醸造学の発展が進み、美食学との結びつきが強化されました。この時期にテイスティングに関する専門書が出版されるようになり、ワインに対する科学的かつ感覚的な評価方法が発展していきました。
例えば、ボルドー大学で醸造学を学んだルイ・パスツールの弟子であるUlysse Gayan(1845-1929)は、ワインの科学的分析を基盤にした評価を提唱しました。これにより、テイスティングの重要性が学問的にも裏付けられました。
20世紀
Emile Peynaud博士(1912-2004)がテイスティングを官能分析として体系化しました。Peynaud博士の研究は、テイスティングを「分析的行為」として確立し、科学的根拠に基づいたワイン評価の規範を打ち立てました。彼の影響により、テイスティングが単なる感覚的な行為から、専門的なスキルとして評価されるようになりました。
1976年「パリスの審判」
ブラインドテイスティングに関する代表的な出来事として、1976年にフランスで開催された「パリスの審判(Judgment of Paris)」が挙げられます。
この試飲会では、ボルドーやブルゴーニュの格付けワインと、当時はまだ国際的評価の高くなかったカリフォルニアのワインが、ラベルを伏せた状態で比較されました。
審査を担当したのはフランスのジャーナリストやワイン専門家でしたが、結果として最も高い評価を得たのはカリフォルニアのワインでした。
この出来事は、「産地やブランドの先入観を排し、味わいそのものに向き合う」というブラインドテイスティングの意義を世界に広く知らしめる契機となりました。

現代における発展
近年、ブラインドテイスティングは専門家のための手法という枠を越え、一般の飲み手にとっても身近な「楽しむ文化」へと広がっています。競技としても大きく注目され、さらには試験やプロの技術という枠を超えて、多くの人が楽しめるイベントやエンターテインメントとしての側面が広がっています。
アカデミー・デュ・ヴァン杯の開催
ブラインドテイスティングの競技化の先駆けとなったのが、2014年から2015年に東京の老舗ワインスクールであるアカデミー・デュ・ヴァンで始まった「アカデミー・デュ・ヴァン杯」です。
この大会では、ソムリエ以外にもワイン愛好家たちがブラインドテイスティングでワインの産地や品種、ヴィンテージなどを当てて競い合います。プロだけでなく、一般の愛好家たちも気軽に参加できるこの大会は、ブラインドテイスティングをさらに大衆的で身近なものにしました。
ソムリエ協会でのブラインドテイスティング大会の開催
さらに、2017年には日本ソムリエ協会が主催するブラインドテイスティング大会(通称BTC)が初めて開催され、競技としてのブラインドテイスティングが業界全体に浸透しました。
この大会では、全国のプロのソムリエやワイン愛好家が一堂に会し、純粋にブラインドテイスティングの技量のみを競い合います。こうした動きは、日本におけるブラインドテイスティングの普及と文化的な発展に大きく貢献しました。
ブラインドテイスティング大会の増加とYouTubeでの発信
さらに近年、ブラインドテイスティングの大会は増加しており、様々なワインスクールで企画されています。また、各種ワインイベントでも簡単なブラインドテイスティングのゲームが開催されたり、個人主催のブラインドテイスティングイベントや大会など、その規模や形式は多岐にわたります。
また、ブラインドテイスティングを題材にしたYouTubeチャンネルのおかげで、競技として大衆にも認知されるようになりました。ブラインドテイスティングがエンターテイメントとして大衆に認知され、YouTubeやSNSを通じて、オンラインとリアルの両方で楽しむ文化として定着し、プロ/アマの境界を越えて多くの人々が参加する新しいワインカルチャーへと発展しています。

ブラインドテイスティングは、五感を育て、人間力を高める
ブラインドテイスティングは、単にワインを当てるゲームではありません。
視覚・嗅覚・味覚・触覚などの五感を総動員し、そこから得た情報を記憶と照らし合わせ、言語化し、推論する。
この連続したプロセスそのものが、人の感覚と認知を磨いていく「訓練」になります。
近年の感覚科学では、嗅覚や味覚は訓練によって向上する可能性があることが示唆されています。また、ブラインドでのテイスティングを継続的に行った人は、香りの識別や評価の精度が高くなるだけでなく、他の香り刺激にも応用が効くケースがあると報告されています。
つまり、ブラインドで味わう経験は単に「ワインがわかるようになる」だけではなく、感覚そのものを洗練し、判断の質を豊かにしていくプロセスなのです。
情報過多で、外部の価値観や評価に感覚を引っ張られがちな現代において、
「自分が感じたこと」を、外部情報ではなく、自分の感覚を基準にして判断する時間を持つことはとても貴重です。
ブラインドテイスティングは、味覚と嗅覚という最も原始的な知覚を入口に
世界との接触を自分の五感を通して再獲得する行為です。
そしてその積み重ねが、「五感で世界を鮮やかに」という当協会のミッションに直結しています。